仙台高等裁判所 昭和25年(う)347号 判決 1950年7月24日
被告人
琴正挾
外一名
主文
被告人琴正挾の控訴は之を棄却する。
原判決中被告人鈴木実に關する部分を破棄する。
被告人鈴木実を懲役八月及び罰金二千円に処する。
原審に於ける未決勾留日数中十五日を右懲役刑に算入する。
此罰金を完納することが出来ない時は金二百円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。
但し此判決確定の日から参年間右懲役刑の執行を猶豫する。
原審に於ける訴訟費用中、証人增子菊哉に支給した分以外の部分は被告人両名の連帯負担とし、当審に於ける訴訟費用中被告人琴正挾の国選弁護人引地寅治郞に支給した分は被告人琴の負担、被告人鈴木実の国選弁護人本田詮男に支給した分は被告人鈴木の負担とする。
理由
弁護人引地寅治郞の控訴趣意一及び二について。
原判決は、被告人琴正挾に関し、起訴状記載の公訴事実第一、(一)若くは(二)、並第三に対する判示第一及び第四の犯罪事実を認めたことが明かであり、之を認めた証拠として、盜難被害顛末書、差押調書、及び供述調書の各記載並びに被告人両名の公判廷に於ける供述の外起訴状の公訴事実第二、第三、の記載を挙示して居ること所論の通りである。そして、是は原判決を査閲すれば、相被告人鈴木実の原審公判廷に於ける、公訴事実第二、は全部相違ありませんとの供述並びに被告人の原審公判廷に於ける、公訴事実第三は全部其通り相違ありませんとの供述の内容を充足する為に夫々起訴状の公訴事実の記載を引用した趣旨であることが直に首肯し得られる次第であつて、判決に摘示する証拠の記載方法として、斯様な引用に依る方法が適法且つ有効であること並びに適法有効なる為には裁判官に於て更めて起訴状を被告人に読聞かせる必要がある訳のものでないことは贅言を要しないところである。今原審第一回公判調書に徴すると、裁判官が、検察官の起訴状朗読後、被告人両名に対し、其默祕権有ることを告げた上、右朗読に係る事実に付て陳述することが有るかどうかを問うた処、被告人両名は夫々公訴事実第二、第三、に関し、右の様に陳述したことを認め得るから、裁判官が更めて起訴状を被告人に読聞かせなくても、此公訴事実の記載を被告人の陳述の内容として引用した原判決には何等違法の點はない。論旨は理由がない。
(被告人琴正挾の弁護人引地寅治郞の控訴趣意)
一、第一審裁判所の言渡したる判決理由を観るに被告人の犯罪事実として。
第一被告人琴は昭和二十五年二月十日午後三時頃東北本線下り第四一一号旅客列車が福島県岩瀨郡内鏡石駅附近と須賀川駅間を進行中右列車内にて乘車中の東京都杉並区の和泉中学生小関金一郞所有の赤革鞄一ケ(卒業論文書類、書籍ノート等在中)を窃取したる事実を摘示し其証拠として第一、二の事実は小関金一郞作成の盜難被害顛末書、差押調書並びに被告人が当公廷に於ける供述及び起訴状公訴事実第二記載に依り之を認定すと記載してある。
然れども起訴状公訴事実を証拠として採用するには只被告は公訴事実第何項の犯罪事実を認めた許りでなく更に其公訴事実記載の内容を読み聞かせなければ之を証拠とすることが出來ないことが証拠に関する法律解釈上寔に明かである。
然れども第一審裁判所は右の手続を採らずして之を証拠として断罪の資料に供したるは違法である。
二、又第一審裁判所は被告琴は同月(九、十月)に亙り鉄道係員の許諾を受けないで有効乘車劵なくして東北本線上野駅より同線須賀川駅まで旅客列車に乘車したものであると判示し之が証拠として被告人が公判廷に於ける供述及び起訴公訴事実第二、第三、の各記載に依つて之を認めると記載している。
然れども右の點に付ても前記の如く被告人が公判廷に於て右公訴事実記載の犯行を認めたとしても更に之を読み聞かせた記載がなければ之を証拠として採用することが出來ないことは前記の通りである。
(註 本件被告人鈴木実の破棄理由は量刑不当による)